大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和57年(オ)111号 判決

上告人

藤巻てい

右訴訟代理人

玉井秀夫

被上告人

大同産業株式会社

右代表者

西山茂俊

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人玉井秀夫の上告理由一について

所論は、不動産の代物弁済による所有権移転の効力を生ずるためには債権者への所有権移転登記がなされなければならないとした原審の判断の違法を主張する。

不動産所有権の譲渡をもつてする代物弁済による債務消滅の効果は、単に当事者がその意思表示をするだけでは足りず、登記その他引渡行為を完了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ生じないことはいうまでもないが(最高裁昭和三七年(オ)第一〇五一号同三九年一一月二六日第一小法廷判決・民集一八巻九号一九八四頁)、そのことは、代物弁済による所有権移転の効果が、原則として当事者間の代物弁済契約の意思表示によつて生ずることを妨げるものではないと解するのが相当である(昭和三九年(オ)第九一九号同四〇年三月一一日第一小法廷判決・裁判集民事七八号二五九頁)。したがつて、原審が、不動産の代物弁済による所有権移転の効力を生ずるためには債権者への所有権移転登記がされなければならないと判断したのは失当である。

しかしながら、原判決の説示するところを通覧すれば、原審は、上告人が本訴で主張する土地は原判示一五〇六番三の土地であつて本件土地ではないと判示しているものと解されなくはないから、本件土地が被上告人の所有に属するものと判示したうえ被上告人の上告人に対する本訴請求を認容した原審の判断は、その結論において是認することができる。論旨は、結局理由がなく、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでその不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木下忠良 鹽野宜慶 宮崎梧一 大橋進)

上告代理人玉井秀夫の上告理由

一、控訴審判決理由一1に

「不動産の代物弁済による所有権移転の効力を生ずるためには債権者への所有権移転登記がなされなければならない。」とあるが、

丹羽冨美男が代物弁済契約によつて被控訴人(被上告人)から本件土地所有権を取得したものを、控訴人(上告人)が更に丹羽から買受けてその所有権を取得して、被控訴人から控訴人に対し中間省略登記をすることは、許されると解すべきであるから、控訴審の判断は判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反である。

二、控訴人は被控訴人から現地を見せられた土地とは別の土地を売りつけられたことになるが、控訴人は詐欺による意思表示は取消していないので西坪一五〇二ノ一の土地に関する売買契約は成立している。

三、追認の主張(第一審判決理由四)に対する判断がない。

第一審判決は、「原告は昭和四九年頃右分譲地買受人から本件土地の売買の事実の有無を聞かれ更に昭和五一年頃本件土地部分の通行を妨害されている事実を聞き及び、登記簿謄本をとつてみて本件登記がなされていることを知つたこと、原告は昭和四九年頃から事実上営業を停止していたため、被告との交渉は主に右分譲地買受人らに任せて、電話で被告と一回位交渉したにすぎないこと、以上の事実を認めることができ、右事実関係のもとにおいては、原告が丹羽の無権代理行為につき黙示の追認をしたものと認めることはできない。」というが、不動産の売買契約が成立しその移転登記がなされると、その翌年には不動産譲渡税が売主に課せられることは顕著な事実であるところ、昭和四五年一二月に売買に因る移転登記がなされているのであるから、昭和四六年中には原告名義の西坪一五〇二―一の移転につき課税されたとみなすべく、その後、昭和五四年一〇月まで漫然放置したのであるから、丹羽の売買行為が権限に基づくものでないとしてもこれに対し黙示の追認をなしたものと推認するのが相当であるから、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反がある。

四、民法第一一〇条の正当の理由の判断につき、「被告は本件取引まで丹羽と一面識もなかつたのであり、特段取引を急ぐべき事情もなかつたのであるから、丹羽が真実本件土地の所有者であるか否かについて調査すべきであるのが当然であり、かかる措置をとることなく、漫然丹羽を所有者本人(原告)と信じたとしても正当の理由があるとは認め難い。」というが、被告は世情にうとい農婦であり、母が親しく交際していた浅野あい(丹羽の内縁の妻)も同行していたので丹羽を信用したことは当然であり、正当な理由があつたというべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例